タンジブルとは?具体例で理解する有形の力
朴の木の木目を眺めていると、これがやがて一本の刀を包むのだと思うと、不思議な感覚になる。そして実際に、完成した白鞘を手に取った時——。
布の包が静かに開かれる。現れるのは、華美な装飾を一切まとわぬ、素朴な朴の木肌を持つ一本の鞘。白鞘である。その存在はあまりに静かで、控えめだ。しかし、中から姿を現す刀身は、息を呑むほどの光を放つ。鍛え上げられた地鉄の冴え、波のように寄せる刃文のゆらめき。それは紛れもなく、一つの完成された美の世界だ。
私たちはここに、タンジブル(有形)な鞘が、タンジブルな刀を納めているという、ただそれだけの光景を見る。しかし、この重なり合いが放つ静かな迫力は、目に見える以上のものを私たちに感じさせる。タンジブルとタンジブルの交わりの奥に、インタンジブル(無形)の感性が立ち上がる。
タンジブル活用事例 ― 刀剣に学ぶ感性の形
一本の刀剣は、単なる鋼の塊ではない。それは、刀工の感性がタンジブルな形へと昇華した、魂の結晶である。
火花を浴び、幾度も打たれる鋼。焼き入れの炎の中で生まれる刃文。そこに宿るのは、職人が追い求めた理想の切れ味と、宇宙を見るような美意識だ。
刀はタンジブルでありながら、触れる者に過去の職人の息遣いというインタンジブルを伝える。つまり刀剣とは、感性が凝縮されて有形となったものであり、タンジブルにしてインタンジブルを呼び起こす存在なのだ。
タンジブル同士が重なる時に起こること
では、白鞘はどうだろう。
白鞘は装飾を持たず、ただ静かに刀を包む。タンジブルがタンジブルを包み込むこの営み自体が、すでに意味を語っている。
白鞘の使命は守ること。刀を錆や塵から守る。戦いに赴く拵とは違い、そこにあるのは安らぎの居場所だ。さらに、鞘に記される鞘書は、タンジブルな木肌にインタンジブルな情報を刻み、刀の来歴を語り継ぐ。
白鞘とは、タンジブルの静けさを通してインタンジブルを響かせる器なのである。
あなたの創造活動でタンジブルを活かす方法
刀剣が「感性の結晶」というタンジブルなら、白鞘は「感性を守り伝える」ためのタンジブルである。
作品と記録。表現と沈黙。情熱と静けさ。
この二つのタンジブルが互いを引き立て合うとき、私たちはそこに感性というインタンジブルの対話を見出す。
だから私たち自身の創造活動においても、「刀」と「白鞘」の両方を持つ必要がある。生み出すこと(刀)と、守り伝えること(白鞘)。その二つのタンジブルのあいだを感性が行き来するとき、私たちの作品はより深く、豊かな響きを放ち始める。