タンジブル・ビジネスの本質〜感性を形にして価値を生む経営戦略

感性を形にするタンジブル・ビジネスの概念を表現した抽象的なビジネスイラスト
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形にすることで、初めて見える価値がある

ビジネスの世界で「タンジブル(tangible)」という言葉は、通常「有形資産」を指します。しかし、タンジブル・ビジネスの本質は、単に物理的な資産を持つことではありません。

それは、組織の中に眠る「なんとなく」を、触れられる形に変換する経営手法なのです。

あなたの会社の「手触り」は何ですか?

興味深い質問をしてみましょう。「あなたの会社を触ったら、どんな感触がしますか?」

ざらざら?つるつる?温かい?冷たい?柔らかい?硬い?

馬鹿げた質問に聞こえるかもしれません。でも、顧客は確実にあなたの会社の「手触り」を感じています。それは、電話対応の声のトーン、メールの文体、商品の梱包の仕方、店舗の匂い、ウェブサイトのクリック感…すべてが積み重なって生まれる総合的な感触です。

タンジブル・ビジネスとは、この「手触り」を意図的にデザインすることから始まります。

感性の在庫管理という発想

従来の経営学では、在庫は「モノ」でした。しかし、タンジブル・ビジネスでは「感性の在庫」という概念が重要になります。

たとえば、あなたの組織には、こんな感性が眠っていませんか?

  • 新入社員が初日に感じた「違和感」
  • ベテラン社員が持つ「勘」
  • 顧客からの「なんとなく違う」というフィードバック
  • 会議で誰も言語化できなかった「もやもや」

これらは通常、無視されるか、忘れ去られます。しかし、これこそが最も貴重な「感性の在庫」なのです。

形を変えることで生まれる「余白」

興味深いことに、形を変えると「余白」が生まれます。

お米は「食べなければならない主食」ですが、せんべいは「食べても食べなくてもいいおやつ」。この「〜してもしなくてもいい」という余白が、新しい価値を生むのです。

米菓鑑定士として数々のせんべいと向き合ってきた私が気づいたのは、せんべいは『食べ物』ではなく『関係性のメディア』だということです。

手土産として持参されるせんべいは、『食べ物』以上の役割を担っている。それは『私はあなたを思っています』という気持ちを運ぶメディア。

渡す瞬間の『つまらないものですが』という言葉と共に、関係性が更新される。相手が袋を開ける時、一緒に食べる時、そして『美味しかった』と後日連絡をくれる時—せんべいは3つの時間軸で人をつないでいく。

興味深いのは、高級すぎず、安すぎない『ちょうどよい価値』であること。この絶妙なラインが、受け取る側に『お返しのプレッシャー』を与えず、純粋な感謝だけを残す。

保存食として生まれたせんべいは、今や世代をつなぎ、場をつなぎ、心をつなぐ橋渡し役を担っている。

ビジネスでも同じです。 「コンサルティング」を「カフェでの雑談」という形に変えたら? 「研修」を「演劇」という形に変えたら? 「会議」を「散歩」という形に変えたら?

形を変えることで、義務が選択になり、重さが軽さになり、堅さが柔らかさになる。そこに生まれる余白に、顧客は自分の物語を描き込めるのです。

示唆的タンジブル:あえて50%で止める勇気

完璧に形にしてしまうと、想像の余地がなくなります。だからこそ「示唆的タンジブル」という考え方が重要になります。

50%だけ形にして、50%は余白として残す——いや、70%でもいい。その残りの部分に、顧客や従業員が自分の物語を描き込める。

この「未完成の美学」こそが、真のタンジブル・ビジネスの極意かもしれません。

明日からできる小さな実験

大げさな変革は必要ありません。まず、こんな小さな実験から始めてみませんか?

「今日の会議で生まれた『なんとなく』を、明日、何か一つの形にしてみる」

それは落書きかもしれない。プロトタイプかもしれない。詩かもしれない。 形は何でもいい。大切なのは、感性を形にする習慣を始めることです。

結び:形にすることは、対話を始めること

タンジブル・ビジネスの本質は、感性を形にすることで対話を始めることです。

形にした瞬間、それは他者と共有可能になり、批評可能になり、改善可能になる。そして何より、新たな感性を呼び起こす触媒となる。

あなたの組織に眠る感性を、どんな形で世界に問いかけますか?


※本記事は筆者の実体験を中心に構成しています。

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